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ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)とは

著者:
島崎 聡史
ニュータニックス・ジャパン / ソフトウェアテクノロジーセンター テクニカルエバンジェリスト

最終更新日:2022年4月28日

2020年06月03日 | min

仮想化基盤をソフトウェアによる仕組みでシンプル化し、運用の改善や生産性の高い業務に注力するための時間創出を実現する手段として「HCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)」が注目を集めています。このコラムでは、HCIとは何なのか?、従来型の ITインフラが抱える課題をHCIがどのように解決するのか?をわかりやすく解説します。(※読了時間 約10分)

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◎ 仮想化の普及と課題の顕在化

サーバー仮想化が、一般的な企業のIT環境に普及し始めて10年以上が経ちました。x86アーキテクチャ向けのエンタープライズ用仮想化ソフトウェア(ハイパーバイザー)の登場と、CPUの高性能化やメモリーの大容量化が、高集約・高密度なサーバー統合を急速に後押ししたと言えるでしょう。サーバーの物理的な設置や管理の手間が大幅に削減でき、ITインフラの管理は楽になった…かと思いきや、サーバー仮想化の登場以前とは異なる部分での課題が顕在化してきました。

その課題とは、思いのほか仮想化基盤が「複雑」で「柔軟性に欠ける」という点です。その原因は、仮想化基盤において多く用いられてきた「3Tier」(スリーティア)構成と呼ばれるシステム構成にありました。3Tierとは、仮想化基盤を構成するハードウェアである「物理サーバー」「SAN」(Storage Area Network)「共有ストレージ装置」による3層構成を指します。

仮想化ソフトウェアには、仮想化基盤の可用性や運用性を高めるために「HA」(物理サーバーの障害に巻き込まれた仮想マシンを、別の物理サーバー上で自動復旧する)や「ライブマイグレーション」(仮想マシンを稼働したまま別の物理サーバーに移動させる)といった機能が搭載されています。これらの機能を利用するには、仮想マシンのデータを物理サーバーのローカルディスク上ではなく、複数の物理サーバーからアクセス可能な共有ストレージに格納する必要があります。これを実装する際に多く用いられたのが3Tier構成でした。

◎3Tier構成の課題

3Tier構成が、どのように「複雑」で、「柔軟性に欠ける」のか、を説明します。3Tier構成の複雑さは、そもそも「物理サーバー」「SAN」「共有ストレージ装置」という別個のものを組み合わせている点に起因します。これは単に”物理的な配線が複雑”、という話だけには留まりません。「物理サーバー」にハイパーバイザーをインストールする程度なら簡単ですが、「SAN」や「共有ストレージ装置」まで含めた機器選定・設計・構築・運用などを適切に行うには、それぞれの製品に対する理解と習熟が必要となります。しかしながら、メーカーや製品ごとに機能や管理ツールのユーザーインターフェースが異なりますし、構築や運用においては各々の管理ツールを組み合わせて正しい順序でオペレーションする必要があるなど、決して簡単なものではありませんでした。

3Tier構成は理論上、「物理サーバー」「SAN」「共有ストレージ装置」をそれぞれ、好きなメーカーの好きなモデルで組み合わせることができ、リソースが不足した場合には、それぞれの機器を個別に増設することもできるため、一見、柔軟性が高いように感じられます。しかし実際には、メーカー動作が確認済みでない組み合わせには動作やサポートにおけるリスクがつきまとうため、どれを選んでも問題ない。というわけではありません。また、3Tierでは、どこか1ヵ所に増設を行うと、芋づる式にほかの個所にも設定変更が必要となります。さらに、構成変更の影響調査なども含めると膨大な工数が必要となるため、頻繁な増設には適さず、「(実際の運用シナリオまで考慮すると)柔軟性に欠ける」というのが実態です。

3Tier構成の複雑さを軽減するために、コンバージドインフラ(CI)というものがHCI以前に登場しました。CIは垂直統合型システムとも呼ばれ、「物理サーバー」「SAN」「共有ストレージ装置」をあらかじめメーカー側で動作確認し、パッケージングした製品です。製品によっては、あらかじめサーバーラックに搭載した状態でラックごと提供されます。こうすることで自由な選択肢と引き換えに「設計」や「構築」の簡素化を行っていますが、運用については3Tier構成そのままの複雑さでした。

3Tier構成の問題点を、より具体的に書いていけばキリがありませんが、一旦これぐらいにしておきましょう。とにかく、この3Tierの「複雑」で「柔軟性に欠ける」という特性が原因で、「設計・構築期間の長期化」「非効率なハードウェア投資」「設計・運用ドキュメントの長大化」「運用工数の増大」「トラブル解決の難化」を始めとする、様々な課題が引き起こされていました。

◎HCIによるシンプル化

こうした3Tier構成の仮想化基盤における課題を解決したのがHCIです。HCIでも、ハイパーバイザーから見れば「共有ストレージ」が利用できる点は何ら変わりありません。しかし、物理的な共有ストレージ装置を用いる3Tier構成とは異なり、HCIは共有ストレージを「ハイパーバイザーが稼働する物理サーバーのローカルストレージ × ソフトウェア」、つまり、SDS(Software Defined Storage:専用の装置を用いずソフトウェアと汎用的な物理サーバーで実装されたストレージ)で提供します。また、ストレージI/Oの通信経路として、SANを用意する必要はなく、イーサネットを用います。

これによりHCIにおいては、仮想化基盤に必要なハードウェアは物理サーバーとイーサネット用のL2スイッチのみ、配線もイーサネットと電源のみ、という極めてシンプルな構成となります。ハードウェア構成のシンプルさは、単にラックへの搭載や配線が楽になるというだけでなく、設計・構築期間の短縮などにもつながる重要なポイントです。

◎HCIの柔軟性を活かしたクラウド的発想のIT投資

シンプルさと並ぶHCIのメリットが柔軟性です。HCIで利用可能な物理サーバーは、機種やCPU・メモリー・SSD・HDD・NICなどのコンポーネントが、あらかじめHCI製品ごとに定められています。3Tier構成における物理サーバーに比べると選択肢が絞られているため、一見、柔軟性に欠けるように思えるかもしれません。

しかし、仮想化基盤全体としての柔軟性に目を向けてみると、どうでしょうか。HCIはハードウェア構成がシンプルであり、かつシステムの制御がソフトウェアで行われています。そのため、初回構築の際、システム拡張やリプレイスの際など、あらゆる場面において3Tier構成に比べて圧倒的に少ないステップで作業を完了できます。

システム拡張による性能への影響という観点も重要です。3Tier構成で物理サーバーを増設すると、ストレージI/O性能に関するリスクが生じます。理由は単純で、共有ストレージ装置のI/O性能を、より多くの物理サーバーでシェアすることになるからです。実際にすべての物理サーバーが均等にストレージI/Oを要求するわけではないので些か雑な計算ですが、共有ストレージ装置のI/O性能を100とすると、物理サーバー3台でシェアした場合には100÷3≒33.3だったものが、物理サーバー4台になると100÷4=25となります。つまり、物理サーバー1台あたり25%程度ストレージI/O性能がダウンすることになるわけです。

一方、HCIにおけるシステム拡張では、物理サーバーを増設することで、CPUやメモリーなどの計算リソースだけではなく、HCIのSDSに利用されるSSDやHDDも一緒に増設され、ストレージ容量増やI/O性能の向上が同時に行われます。このように、ハードウェアの台数を増やすことでシステム全体としてのパフォーマンスを向上させる手法を「スケールアウト」と言います。

また、3Tier型の仮想化基盤では、導入後の拡張を避けるために「数年後を見越した大幅に余裕のあるサイジング」が行われがちでしたが、これは「数年後まで使われないリソースへの投資」と同義であり、仮想化基盤の投資効率を悪化させる要因の1つです。3年後に使うパソコンを、今のうちに買っておこうと考える人はいませんよね?3年後に買ったほうが、同じ値段でより高性能・大容量なものが手に入るので当然でしょう。もちろん、仮想化基盤を構成する物理サーバーにおいても同じことが言えますが、複雑で柔軟性に欠ける3Tier構成であるが故に、多くのケースで合理的ではない投資が行われてきました。

HCIはシンプル、かつスケールアウト可能なアーキテクチャであるため、「スモールスタート」して「必要な時に、必要な分だけ拡張する」という柔軟な投資が可能です。これは、「Pay As You Grow」(成長に応じた支払い)モデルと呼ばれ、クラウドコンピューティングのメリットの1つとも言われます。つまりHCIは、オンプレミスの仮想化基盤を、クラウド的な投資モデルに転換させることができる仕組みと言えます。 

◎Nutanixが目指すインビジブルなITインフラ

ここでは、Nutanixには敢えてあまりフォーカスせず、HCI全般に共通する特徴について解説しましたが、HCIは、従来の3Tier構成が抱える課題を「シンプルさ」と「柔軟性」で解決するテクノロジーであることがおわかりいただけたかと思います。

最後に、Nutanixのことについても少しだけ触れておきます。Nutanixは、2009年に創業したシリコンバレー発の企業で、まだ当時は、影も形もなかった「HCI」という概念や言葉を生み出し、市場をリードしてきました。Nutanixが10年余りで従業員5,000名以上の規模へと急成長する過程で、多くの企業がHCI市場に参入してきました。しかし、HCIの定義そのものは、「ハイパーバイザーとSDSを同居させた複数台の物理サーバーで構成される仮想化基盤」という程度の大まかなものであるため、技術的な成り立ちやアーキテクチャ、性能や使い勝手など、あらゆる面が製品ごとに大きく異なります。

NutanixのHCIが基にしているのは、「WebスケールIT」と呼ばれる超大規模Webサービスを提供するハイパースケール企業(Google, Amazon, Facebookなど)が実践するITインフラ構築の手法です。実は、HCIの礎を築いたNutanixの初代CTOである、Mohit Aronも元Google File Systemのリードデベロッパーでした。ハイパースケール企業は超大規模なITインフラを、その規模に対する比率としては少人数な体制で運用しています。それを実現するために、次のような特徴を持つITインフラを設計・構築しています。

  •  特殊な専用ハードウェアが使用されていない   
  • あらゆる機能がソフトウェアで実装されている   
  • 単一障害点のない分散アーキテクチャである   
  • ハードウェア障害に対する自己回復力がある   
  • システム状況の分析や最適化が自律的に行われる

NutanixのHCIは、これらの特徴を受け継ぎながら、一般的な企業のITインフラの規模に合わせて動作するよう設計されています。そして、この仕組みによりITインフラを合理化し、「インビジブル (Invisible) 」な存在にすることを目指しています。インビジブルとは、直訳すると「不可視」という意味ですが、「存在を意識する必要がないくらい簡単に使えるITインフラ」という意味をこの言葉に込めています。

次のコラムでは、Nutanixがどのように「インビジブル」なITインフラを実現しているのか、より具体的に解説していきたいと思います。

その他のリソース

Nutanix探検隊 第1話 『とにかくやさしいHCI』

3/22(金) 開催 ウェブセミナー

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