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ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)のメリット・デメリット、そしてNutanixの強みとは

ニュータニックス・ジャパン / ソフトウェアテクノロジーセンター テクニカルエバンジェリスト

従来の3 Tier型の仮想化基盤が抱える複雑性を解消し、クラウド的な「必要な時に、必要なだけ」というIT投資を実現するハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)ですが、多くのメリットがある一方で、やはり多くの方が気にするのが「何かデメリットはないのか?」という点です。今回は、HCIのメリットのおさらい。そして、しばしば質問される「何かデメリットがあるのでは?」という疑問への回答と、Nutanixにおける考え方や実装を解説します

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◎HCIのメリットのおさらい

HCIのメリットを短くおさらいします。前回のコラムでは長々とメリットをお伝えしましたが、ポイントとなるのは次の2つです。

  • 3 Tier型の仮想化基盤に比べてシンプルである   
  • スケールアウトを行いやすい

この2つは程度の差こそあれ、Nutanixならではの話ではなく、市場に登場している多くのHCI製品に共通した点であり、そこからHCIの持つ様々なメリットが生み出されていると言えるでしょう。前回のコラムを踏まえてまとめると、「シンプルであり、スケーラブルであるからこそ、クラウド的なIT投資への転換やサイロ化の解消が可能。また、1人情シスのような少人数体制でも無理なく運用でき、管理者にとっての学習コストも低く抑えられる」といったところでしょうか。

図:HCIのシンプルさ

図:HCIのシンプルさ

しかし、メリットだけを強調していても、多くの人は不安になることでしょう。続いては、HCIにまつわる様々な疑問にお答えします。これらの疑問は、純粋な視点でユーザーの方からいただく場合もあれば、3Tier関連製品を売る側からのFUD(Fear(不安)、Uncertainty(不確実)、Doubt(疑念)の頭文字を取った言葉。偽情報戦術)としてよく使われるようなものも敢えて盛り込んで、真正面から回答したいと思います。

◎HCIは、従来型の共有ストレージ装置よりもI/O性能が劣っていませんか?

HCIは、製品により内部のアーキテクチャーが大きく異なり、I/O性能についてもピンからキリまでありますので、一概に優れてるとは言い切れません。なお、Nutanixは、非常に高速かつ安定したパフォーマンスを出しやすいのが特長のアーキテクチャーです。

Nutanixは、スケールアウトが容易な分散アーキテクチャーに加え、データローカリティという考え方で性能を高めています。データローカリティとは、「仮想マシンの使用するデータを、仮想マシンが稼働している同一サーバー筐体上のディスクに配置する」という仕組みです。Nutanixはデータを保存する際、データを多重化して複数ノードに書き込むことで冗長性を確保しますが、そこで冗長化したデータのうち1つはローカルに書き込みます。これにより、書き込み時のネットワークトラフィックの削減、読み込み時のネットワークトラフィックの削減と遅延の抑制が可能です。HCIや分散アーキテクチャーのストレージシステムの課題は、データの読み書きの際に、ネットワーク越しにデータのやり取りが発生することにより、ネットワーク帯域を消費する点です。しかし、Nutanixは、データローカリティでネットワークトラフィックの発生自体を減らすことで、この特性をカバーしています。

なお、ライブマイグレーションやHAにより仮想マシンの配置が変わった際には、読み込み要求の発生したデータを随時、再配置することでローカリティを回復します。アクセスされていないデータについては無暗に再配置しませんので、ネットワーク帯域を無駄に消費することはありません。

図:データローカリティ

図:データローカリティ

◎HCIは、3Tier環境の共有ストレージ装置よりも信頼性が劣るのではありませんか?

HCIでは、基本的にソフトウェアによる信頼性担保の仕組みを持っています。ただし、その仕組みはHCI製品ごとに異なりますので、一概に優れているとは言い切れません。なおNutanixは、従来のRAIDを用いた信頼性担保よりも優れた、分散アーキテクチャーならではの自己回復力が売りの1つです。

ハードウェア観点の信頼性にも触れておくと、Nutanixのインストール先ハードウェアとして認定されているのは、主要サーバーベンダー各社のエンタープライズ向けモデルの製品です。そのため、ハードウェアとしての品質は各社のお墨付きです。それに加えて、ソフトウェアの仕組みを用いて、ハードハードウェアの故障などのもしもの時に備えています。I/O性能のところでも説明したとおり、Nutanixは、データを複数ノードに複製・分散することで、冗長性を担保しています。

これによって得られる信頼性の面でのメリットとして、RAIDを用いた従来の仕組みのストレージ装置よりも高速にリビルドを行える点が挙げられます。RAIDのリビルドは遅く、リビルドが終わる前にさらなるディスク障害が発生してデータを損失するリスクがある。といった話は”ITインフラあるある”として聞いたことのある方が多いのではないでしょうか?RAIDのリビルドがなぜ遅いのかというと、「RAIDのリビルド=ディスクの修復」であり、リビルド速度の限界はディスク1本分の書き込み速度に相当するからです。RAIDには1, 1+0, 5, 6など様々なモードがありますが、いずれの方式でも冗長性の回復を行うには、故障したディスクを新しいディスクへ交換(ホットスペアがあれば、この点だけは即座に解決される)、および新しいディスクへのデータの書き込み(これの遅いことが最大の問題)が必要です。このRAIDの欠点は、ハードウェアベースのRAIDコントローラを使用していても変わることはありません。

一方Nutanixの場合、「冗長性の回復=ディスクの修復」ではありません。Nutanixにおけるデータの冗長性は、「クラスター内のどこかにデータの複製が存在すればいい」という仕組みです。そのため、クラスター内のディスクに空き容量さえあれば、その領域を使用して即座にリビルドを開始します。ディスク交換を待つ必要がないばかりか、リビルド時のデータの読み書きを、クラスター内の複数のディスクを用いて並列で行うことができるため、リビルドを短時間で終え、多重障害によるデータ損失のリスクを低減できます。

図:Nutanixの分散処理によるリビルド 

図:Nutanixの分散処理によるリビルド 

◎柔軟な拡張ができないのではありませんか?

拡張性についても、HCI製品ごとに差異があります。 

HCI製品によっては、同一構成・同一モデルでしか拡張できないケースもありますが、Nutanixの場合、

モデル違い・CPU違い・メモリサイズ違い・ディスクサイズ違い・ディスク構成違い(SSD+HDDモデルとALL SSDモデル)・世代違いなど、「必要な時に、必要な分だけ」の拡張が可能で、拡張の作業自体も最短数クリックで完了できます。これにより、柔軟で効率的な投資や、シームレスなHWの世代交代が可能となっています。

3Tier構成では、サーバーやストレージを個別に追加できます。ただし、何か1つを追加した時に、設定の更新が必要となる範囲が広いことに加えて、性能キャパシティ的に拡張を想定していない共有ストレージ装置が導入されることも多いです。そのため、「一度構築が済んだら変更しない」といった運用をするか、高額な費用を支払ってでも拡張を行うかの二択でした。そこで、Nutanixを導入することで、確実に柔軟性が増すと言えるでしょう。

1点だけ注意が必要なのは、Nutanixでは異なるハードウェアメーカーのサーバーを1つのクラスターに混在することは、技術的には可能であるものの、保守契約の観点からNGとなっています。ただし、異なるメーカーのハードウェアで構成された複数のNutanixクラスターを用いて、リモートレプリケーションを構成したり、Nutanixが提供する「Prism Central」というツールによる一元管理を行ったりすることは可能となっています。

図:Prism Centralによる一元管理と、マルチHWベンダー間リモートレプリケーション

図:Prism Centralによる一元管理と、マルチHWベンダー間リモートレプリケーション

◎分散アーキテクチャーだと、アップデート作業が大変ではありませんか?

アップデート作業ついても、HCI製品ごとに差異があります。作業手順の面だけではなく、アップグレード作業の業務影響という観点もあわせて解説します。

従来型の共有ストレージ装置では、制御モジュール(コントローラー)が2重化されているものが一般的です。アップグレード作業中には、2系統を片方ずつ更新することで業務継続が可能ですが、単純計算で性能が半分になった状態で作業を行うことになるため、負荷に対する考慮が重要です。

HCIはいずれの製品でも、基本的に制御モジュールがすべてのノードに存在していますので、1ノードずつ輪番で更新を行うことで更新作業中も業務を継続できます。これをローリングアップグレード、あるいはローリングアップデートと言います。4台構成ならば、3台は通常稼働。8台構成ならば、7台は通常稼働というように、従来型の共有ストレージよりも影響を少なく抑えた状態でのアップデートが可能です。

HCI制御モジュール自体のつくりは、Nutanixのように仮想マシンとして実装されている場合もあれば、HCI制御モジュールがハイパーバイザー内に組み込まれている場合もあり、これによってアップグレード作業の業務への影響度が異なります。

Nutanixは、制御モジュールを仮想マシン(CVM)として、ハイパーバイザーから分離しているため、HCI制御モジュールを更新した場合もハイパーバイザーを再起動する必要はありません。また、NutanixはCVMの再起動中にも、稼働中のほかのCVMを利用してハイパーバイザーがI/Oを継続する仕組みがあるため、アップデート作業に際して仮想マシンをほかのノードに退避する必要がありません。HCI制御モジュールがハイパーバイザーに組み込まれている場合、HCI機能のアップデートをしたいだけの場面でも、ハイパーバイザーのアップデートが行われることとイコールとなり、仮想マシンの退避やハイパーバイザーの再起動が必要となります。

また、Nutanixはワンクリックアップグレードという機能により、アップグレードの手順が極めて簡単です。わずか数クリックの操作でクラスター内のすべてのCVMを、輪番かつ正しい手順で更新できます。HCI製品によっては、この手順が複雑であったり、ユーザー自らの手でのアップグレードが許可されないケース(サポートへの依頼が必要)もあったりするため、注意が必要です。

図: ワンクリックアップグレード

図: ワンクリックアップグレード

◎HCIが適さないシステムはありますか?

あります。答えは単純明快で、「仮想化しない」場合と、たとえ仮想化していても「”共有ストレージ不要”と割り切った環境」の場合は、HCIの適用対象ではありません。

まず、「仮想化しない」場合について説明します。一般的な企業のITインフラは、今や仮想化されるのが普通で、物理サーバーに直接OSをインストールすることは少なくなりました。一方、大規模な科学技術計算などを行うためのHPC(High Performance Computing)環境においては、物理サーバーのリソースを余すことなく使い切れること、サーバー間の通信は超高速・超低遅延であることなどが要求されるケースが存在します。こうしたハードウェアの性能を限界まで追求するケースは、そもそも仮想化に適しません。また、共有ストレージ機能をはじめとするHCIが提供する各種機能を物理サーバー上で処理するためには、当然、物理サーバーのCPUやメモリが利用されるという点を意識する必要はあります。 

ただし、HPC環境であっても、仮想化によるリソース利用効率や運用性向上が優先される場合であれば、同時にHCIも検討に値しますし、CPU性能向上やメモリの大容量化にともない、HCIの制御リソースが占める割合が相対的には低くなってきています。

次に「”共有ストレージ不要”と割り切った環境」の場合についても説明します。例えば、スタンドアロンな物理サーバー上で仮想化しているなどの極端に小規模な環境で、ライブマイグレーションやHAなどの機能すらも不要とするほど、可用性に関する要件も低いケースです。この場合には、HCIのメリットそのものが求められていない可能性があると考えられます。

なお、Nutanixは3ノード(=物理サーバー3台)以上でのクラスターを組んだ構成が基本となりますが、小規模環境向けに1ノード構成や、2ノード構成にも対応しています。また、ここでいう小規模環境とは、SMB(Small and Medium Business)向けではなく、ROBO(Remote Office / Branch Office: 支店・支社)向けです。両者の違いは、SMBは「単体で完結する小規模IT基盤」、ROBOは「メインのIT基盤が、別途、存在することを前提とした、支店・支社向けの小規模IT基盤」ととらえると理解しやすいです。Nutanixは、複数拠点のNutanix環境を一元管理する「Prism Central」というツールを提供しており、1ノード構成や2ノード構成の環境をその管理下に置くことで、多拠点にまたがった運用管理の簡素化を実現できます。

図: Prism CentralによるROBO環境の一元管理

図: Prism CentralによるROBO環境の一元管理

Nutanixは、ハイパーバイザー向けの共有ストレージ機能だけでなく、iSCSIストレージ(Nutanix Volumes)やファイルサーバー(Nutanix Files)として、物理サーバーから利用できるストレージ機能も提供できます。これにより、ITインフラの一部が物理サーバーとして存在しており、かつクラスター構成などのために外部ストレージが必要な場合においても、Nutanixを有効活用できます。

図:Nutanix VolulmesとNutanix Files

図:Nutanix VolulmesとNutanix Files

まとめ

Nutanixは、創業から10年余りの新興企業でありながら、HCIという新しいジャンルを確立しました。この記事で紹介したように、ユーザーが抱く様々な疑問や疑念を確実に解消し、その合理性を以てHCIを幅広い場面で使えるソリューションに仕上げ、高い顧客満足を得てきたことが成長理由の1つでしょう。

従来、ITインフラの維持そのものに多く費やされてきた時間・お金・知恵・労働力などを、「インフラの上で何をするか?」という、ビジネスにより密接したベクトルへと転換することは、競争社会の中で企業活動を持続させていくために欠かせない原動力となるでしょう。その手段の1つとして、パブリッククラウドが注目される中、同様の価値をオンプレミスで実現したHCIの登場と、その成長は必然であると考えられます。

HCIを一度使ってしまうと、もう「今までどおり」の選択肢には戻れないかもしれません。もちろん技術的には、仮想マシンを元の3Tier環境に移すことは可能です。しかし、合理性の塊であるHCIを目のあたりにしてしまった後では、「今までどおり」への見方が大きく変わってしまいます。また、HCIを活用すれば、ITインフラの運用管理だけでなく、ビジネススピードも大きく変えられます。ですから、HCIの内部的な詳細に、どこまで興味を持たれるかは個人差こそあれども、「ビジネスに貢献できるITインフラ」という観点で、多くの方にNutanixへの興味を持っていただければ幸いです。

その他のリソース

Nutanix探検隊 第1話 『とにかくやさしいHCI』

ハイパーコンバージェンスの力でプライベートクラウドを促進

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