プライベートクラウドは、特定の組織が専有して利用するクラウドコンピューティング環境であり、オンプレミス型クラウドアーキテクチャーとも呼ばれます。一般的には組織の社内データセンターに展開されます。
近年では、より多くのベンダーが独自のプライベートクラウドサービスを提供しており、従来のプライベートクラウド環境の性能を高める、またはこれに取って代わる存在として注目されています。
プライベートクラウドは、米国立標準技術研究所(NIST)によって次のように定義されています。
「このクラウドインフラストラクチャーは、複数の顧客を抱えた単一の組織のみを対象にプロビジョニングされている。これを所有、管理、および運用するのは、組織、第三者、または両者の組み合わせとなるほか、オンプレミスまたはオフプレミスのどちらにでも存在しうる。」
プライベート、パブリック、ハイブリッドクラウドにはそれぞれ異なるメリットがありますが、プライベートクラウドもパブリッククラウドに見られる主要なクラウド機能を提供します。組織は、セルフサービスによるリソース利用、柔軟な拡張性、仮想マシン(VM)のプロビジョニングおよび構成機能を活用できます。
また、ワークロードの要件に応じてリソースをスケールアップまたはスケールダウンできるほか、オートメーションによって日常的なタスクを簡略化し、IT運用の効率を高めることが可能です。
さらに、チャージバックツールを導入することで、コンピューティングリソースの利用状況を可視化し、実際に使用した分のリソースやサービスのみを把握・管理することができます。
多くの開発者は、生産性を阻害する要因としてリソースへのアクセス不足を挙げています。開発者やテスト担当者が高い生産性を維持するには、最新のテストデータを含む開発・テスト環境へ、容易かつオンデマンドにアクセスできることが重要です。
プライベートクラウドは、こうしたリソースへのセルフサービス型アクセスを可能にし、市場投入までの時間を短縮します。その結果、企業は新たなサービスや機能を、より高い頻度で提供できるようになります。
多くのITチームは、ServiceNowのようなITサービスマネージメント(ITSM)ツールを活用しています。適切に設計されたプライベートクラウドであれば、こうしたITSMソリューションと統合し、セルフサービスによるリソース提供と運用効率の向上を実現できます。
多くの企業は、クラウドネイティブアプリケーションへの新たな投資を進める一方で、引き続き運用・サポートが必要な従来型のビジネスアプリケーションを、数十から数百規模で抱えています。
適切に設計されたプライベートクラウドであれば、共通の運用モデルと単一の管理コンソールを通じて、これら両方のアプリケーションモデルを柔軟にサポートできます。正しく設計された環境では、プライベートクラウドはパブリッククラウドと同様のメリットを提供することが可能です。
その結果、予算の制約を緩和し、ITスタッフの作業時間を削減しながら、運用の複雑さを排除できます。リソースへの迅速かつ容易なアクセス、展開プロセスの簡略化、従来型およびクラウドネイティブアプリケーションの継続的なサポート、そして有効なオートメーションの実現により、IT運用全体の俊敏性が向上します。
企業があらゆる規模でより多くのアプリケーションやサービスを実行するようになるにつれ、手作業によるタスクやワークフローは大きな障害となります。インフラストラクチャーサービスの拡大に合わせてIT職員を同じペースで増員することは、現実的ではありません。
適切に設計されたプライベートクラウドは、こうした課題に対処するためのオートメーションを実現します。これにより、ITチームはより少ない労力でインフラストラクチャーやアプリケーションスタックを展開、運用、拡張できるようになります。
その結果、サービスとしてのIT(ITaaS)を提供できるようになり、開発チームやビジネスチームの生産性向上と業務の効率化を支援します。
プライベートクラウドは、データの統合を支援し、より容易に実現できる環境を提供します。これにより、データのサイロ化を防ぎ、分析や可視化を通じて、より深い洞察を得ることが可能になります。
これまでプライベートクラウドのメリットについて説明してきましたが、実際にはいくつか無視できない制約も存在します。次のセクションでは、プライベートクラウドにおける代表的な課題と、それらへの対処や克服の考え方について解説します。
プライベートクラウドは、従来型のエンタープライズアプリケーションからクラウドネイティブアプリケーションまで、幅広いアプリケーションニーズに対応する必要があります。しかし、柔軟性を欠いたインフラストラクチャーソフトウェアや従来型の3Tierアーキテクチャーでは、こうした多様な要件への適応が難しくなります。
多くのエンタープライズ環境では、パブリッククラウドで一般的なオブジェクトストレージに加え、ブロックストレージやファイルストレージを備えたプライベートクラウドが求められます。これらの要件を満たすために、データサービスごとに異なるハードウェアを展開・管理する必要が生じる場合があり、結果としてコストや運用の複雑さが増大します。
また、個別に分かれたストレージプールは、設備全体の稼働率を低下させ、柔軟性を制限する要因となります。デジタルトランスフォーメーションにおいてデータが極めて重要な役割を果たすことを考えると、この課題への対応は避けて通れません。
プライベートクラウドは高度な制御性を提供しますが、ベンダーが複数の製品をパッケージ化し、不要な機能まで導入してしまうと、管理の複雑さが増し、いわゆる「シェルフウェア」が生まれる原因となります。その結果、組織は実際には活用されないライセンス費用や、エンタープライズライセンス契約(ELA)などの高額なITコストを負担することになります。
レガシーインフラストラクチャー上で稼働するプライベートクラウドは、特定の仮想化プロバイダーにロックインされるリスクも抱えています。ハイパーバイザーの種類やベンダーに関わらず、結果として単一ベンダーの製品や技術に依存してしまう可能性があります。
組織がプライベートクラウドをパブリッククラウドと連携させるには、ネイティブに統合されていない追加のソフトウェアレイヤーを導入する必要がある場合があります。特に、複数のITチームや専門部門を抱える大規模組織では、複雑で効果の限定的なツールに全体が振り回されることになりがちです。
アーキテクチャーの柔軟性が低く、データサービスが複雑なプライベートクラウド環境では、オートメーションの実装自体が難しくなります。その結果、オートメーションの構築に多くの時間を要し、障害の発生リスクも高まります。さらに、トラブルシューティングや保守作業が複雑化し、運用負荷の増大につながります。
クラウドの展開モデルは、大きく分けてパブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの3つがあります。これらは、リソースの共有方法、管理主体、柔軟性と制御性のバランスに違いがあります。
パブリッククラウドは、第三者ベンダーが提供するクラウドサービスで、複数の顧客が同じインフラリソースを共有して利用します。代表的なサービスには、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureがあります。
ベンダーが大規模なコンピューティングリソースを保有しており、利用者は必要に応じて即座にリソースを利用できます。このような環境は、一般にマルチテナント環境と呼ばれます。
プライベートクラウドは、単一の組織が専有して利用するクラウド環境です。組織自身が構築・所有・運用・保守を行うことができ、高いセキュリティや制御性を確保できます。
一方で、オンプレミス型のプライベートクラウドでは、利用できるリソースが自社環境に限定されるため、パブリッククラウドほどの柔軟性や拡張性を確保できない場合があります。
ハイブリッドクラウドは、プライベートクラウドとパブリッククラウドを接続し、両方の環境を組み合わせて利用するモデルです。多くの組織では、プライベートクラウドを主な実行基盤とし、必要に応じてパブリッククラウドへ処理を拡張します。これは一般に「クラウドバースト」と呼ばれます。
このモデルにより、セキュリティや制御性を維持しながら、柔軟な拡張性も確保できます。ただし、両環境で利用するソフトウェアやサービス間に高い互換性が求められます。
適切に構築されたプライベートクラウドは、将来的にハイブリッドクラウドが必要になった場合でも、その展開を容易にし、成功の可能性を高めます。ここで重要となるのは、プライベートクラウドの基盤が十分に整備されているかどうかです。
もしプライベートクラウドが、これまでに挙げたような課題を抱えたままであれば、IT部門がハイブリッドクラウドの運用に割ける時間は大きく制限されてしまいます。その結果、プライベートクラウド上のサービスに依存するハイブリッドアプリケーションでは、パフォーマンス、オートメーション、統合といった領域で制約が生じやすくなります。
一方で、正しく設計されたプライベートクラウドソリューションは、パブリッククラウドとの統合を前提に構築されています。これには、仮想マシンやデータを異なる環境間でコピー、複製、移行するためのツールや、異なるハイパーバイザーへの対応、さらに仮想マシンとコンテナの両方をサポートする柔軟性が含まれます。
このようなプライベートクラウドを選択することで、実質的にハイブリッドクラウドへの「加速車線」を用意することができます。その結果、ハイブリッドクラウドの運用はより容易になり、費用対効果を高めながら、明確なビジネス成果を得ることが可能になります。
プライベートクラウドは、特にセキュリティ面で大きなメリットがあります。一方で、多くの組織はオンプレミス型クラウドのみを利用し続けるつもりはなく、将来的にはハイブリッドクラウドやマルチクラウドアーキテクチャーへの拡張を視野に入れています。しかし、ITの意思決定者の多くは、予算面での制約が大きいため、こうした目標を一時的に見送らざるを得ない状況にあります。その結果、マルチクラウド運用モデルに向けた準備が進まないケースも少なくありません。
このような背景から、組織は基盤となるインフラストラクチャーを、ハイブリッドおよびマルチクラウドの取り組みを支えるうえで最適な状態に整えておく必要があります。あるいは、プライベートクラウドを長期的に利用するのであれば、オンプレミス環境であっても、パブリッククラウドに近いパワーと柔軟性を提供できるインフラストラクチャーが求められます。
しかし、こうした要件を阻んでいる根本的な要因は、レガシーな3Tierアーキテクチャーにおいて、ストレージ、サーバー、仮想化、ネットワークといったコンポーネントが個別に存在し、サイロ化している点にあります。
ハイパーコンバージドインフラストラクチャーは、これらの分断されたコンポーネントをソフトウェアで統合し、サイロを解消します。このアーキテクチャーは、プライベートクラウドの考え方を自然に支える基盤として機能し、次のような価値を提供します。
信頼性の高いセキュリティ構成と監査機能
データのエンドツーエンド暗号化
マイクロセグメンテーションによるセキュリティ強化
ビルトイン型のデータ保護、バックアップ、ディザスタリカバリ
迅速かつ無停止での展開
サービスとしてのIT(ITaaS)の実現
運用コストの削減とROIの向上
現在、組織の約52%が何らかの形でプライベートクラウドを利用しています。さらに、最近の調査では、この割合が今後も増加していくことが示されています。
IDCが実施した調査によると、組織の80%がパブリッククラウドからアプリケーションを移行し、プライベートクラウドへ戻していることが明らかになりました。また、今後2年以内に、パブリッククラウド上で稼働するアプリケーションの50%がオンプレミス環境に戻ると予測されています。では、なぜこのような動きが起きているのでしょうか。
その主な理由は、コスト削減です。IDCの別の調査では、エンタープライズワークロードの大部分を占める予測可能なワークロードを、オンプレミスではなくパブリッククラウドで実行した場合、平均してコストがほぼ倍増することが示されています。
プライベートクラウドは、セキュリティとコストの予測可能性を確保できる点が特長です。そのため、多くの組織が自社内でクラウドアーキテクチャーを運用し、長期的なコスト最適化を図る選択を進めています。
効果的なプライベートクラウドを設計するには、慎重なプランニングと、現在および将来のニーズや優先事項を踏まえた検討が欠かせません。企業向けのプライベートクラウドは、セルフサービス機能、アプリケーション中心のセキュリティ、高い信頼性を備えたデータ保護やディザスタリカバリ、さらにオートメーションを提供できる基盤の上に構築される必要があります。
このような要件を満たす基盤は、企業がデジタルエコノミーで競争力を維持するために不可欠な、次の2つの重要なニーズに対応します。
ITの効率性を高める
デジタルイノベーションを実現する
正しく設計されたプライベートクラウドは、これら両方のニーズに対応できます。IT効率性の向上は、イノベーションを加速するための前提条件です。十分に機能するプライベートクラウドを導入することで、予算の制約を緩和し、IT投資の配分を見直すことが可能になります。
多くの企業では、依然として従来型ITがIT予算の大部分を占めており、イノベーションに充てられる余地は限られています。Gartnerの報告によると、従来型ITは平均してIT支出の81%を占める一方、クラウドへの支出は19%にとどまっていました。こうした従来型支出は、今後さらに減少すると予測されています。従来型ITからプライベートクラウドへワークロードを移行することで、コストを抑え、より多くの予算を戦略的な分野に振り向けることができます。
また、プライベートクラウドは、IT部門の業務負荷を軽減し、従業員の時間を解放します。IT職員が、プロビジョニング、アップデート、データ保護、トラブルシューティングといったインフラ管理タスクに追われている状況では、イノベーションに注力する余裕はほとんどありません。運用の合理化と自動化、そしてセルフサービスの実現により、開発者や利用者自身が必要なリソースを利用できるようになり、ITチームは付加価値の高い業務に集中できるようになります。
最後に、プライベートクラウドは複雑性の排除にも寄与します。従来型IT環境では、データベースなどの重要なアプリケーションを支える専用のコンピューティングやストレージがサイロ化し、運用の複雑さと非効率性を招きがちです。ファイル共有やオブジェクトストレージを含む非構造化データのサイロも、同様に運用負荷を高めます。長年にわたって異なるインフラや技術的負債を抱えてきた企業にとって、こうした複雑性はコスト増大だけでなく、イノベーションの大きな障壁となります。
オンプレミス型運用におけるこうした摩擦を解消できない限り、デジタルトランスフォーメーションの実現は難しく、経営目標も引き続きリスクにさらされることになります。