
クラウドコンピューティング、そしてIoTセンサーといったデータ技術を組み合わせて、電動スクーターから得られるデータの収集・分析が行われている。
こうしたデータを用いて自治体が試みるのは、渋滞の緩和やセキュリティの強化だけでなく、街路灯や駐車スペースの改善、さらには災害対策の拡充と実に幅広い。
2017年9月、eスクーターのシェアリングサービスが、米・サンタモニカの街中に初めて登場した。その後2018年末までに、この安価で便利なeスクーターは全米100都市に85,000台以上も投入されている。
街の混雑状況は悪化し、事故のリスクが高まるなど、人気の裏には難点はある。しかし、この超小型モビリティから得られる膨大な量のデータこそ、ユビキタスな車両がもたらす利点であり、自治体が取得した情報を活用し、都市交通の広範囲な改善を目指すなど、その恩恵を十分に生かす機会だ。
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2018年にパイロットプログラムが実施された際、eスクーターを用いて実証実験を開始したのが、米・オレゴン州ポートランドだ。

3社がこの実験に参加し、約2,000台のeスクーターが街中に配置された。利用1回あたりの平均移動距離は1マイル強だったが、5ヵ月後にはその合計が約80万マイルに到達した。
これは地元の人の3分の1が、そして観光客の半数が、車やタクシーの代わりにeスクーターをレンタルした結果を表した。
現在、2度目の実験が1年間の予定で行われており、Bird社、Bolt社、Lime社、Razor社、Shared社、そしてSpin社といった企業により、eスクーターが提供されている。
開始から7ヵ月経過した時点で、移動距離の合計は100万マイルに達した。
PBT(ポートランド交通局)のジェイコブ・シャーマン氏は、eスクーターから得られるデータは市の様々な用途に活用されていると述べている。
シャーマン氏 「デジタル時代の都市として最も理に適った運営方法を、様々なアプローチで探っています」
彼らが手始めに取り組んでいるのが、台数の把握・処理だ。PBTはクラウドコンピューティングプラットフォームのMicrosoft Azureを採用し、データウェアハウスおよびデータレイクの管理を行っている。
Kubernetesサービスを使ってApache Airflowを実行し、データのワークフローと、SharedStreetsを基にルートを決定するカスタムアプリケーションのオーケストレーションを実施している。
データの処理や管理については、Ride ReportやOMF(Open Mobility Foundation)など、複数の企業や組織と連携しており、データの可視化にはTableauを採用している。
SharedStreetsやOMFなどのプラットフォームには、自治体と民間企業がモビリティ情報をリアルタイムで交換できるように、オープンソースソフトウェアが活用されている。
スクーターの現在地やその台数を追跡すれば、許可した台数を超えていないかどうか、自治体側で監視することが可能だ。
また、裕福層、貧困層に関わらず、地域に暮らすすべての住民がeスクーターを利用できるよう、公平性を担保することにもつながる。
都市開発の視点からは、安全確保のために設置したバイクレーンなど、交通における改良点がどの程度効果を発揮しているか、検証することにもつながる。
スクーター利用者はヘルメットをかぶらないことが多いため、必然的にバイクレーンを選ぶことが多くなる。
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データ分析の目的は、より的確な意思決定を下せるようになること、そしてインフラ計画への取り組みを前に進めることにある。
ポートランドのような都市は何台のeスクーターを運用できるのか、あるいはドロップゾーンといった設備をどこに設置するかなど、判断する材料をデータから得ることができるのだ。
また、バス、路面電車、ライトレールといったほかの交通機関にeスクーターの運用がどう影響するかについても、データがあればより深く把握することができる。
災害時など道路封鎖を伴うような不測の事態が起きた場合には、自治体がeスクーター企業とデータをやり取ることで、eスクーターのユーザーがより安全かつ効率的なルート選択ができるようサポートも可能になる。
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「観光客や住民の目的地を理解するにあたり、eスクーターのデータは極めて有効です」ーーこう話すのは、カナダ公衆保安省のアリソン・ブルックス氏だ。

米国やヨーロッパと比較すると、カナダはeスクーターの導入は遅く、そこには安全上の懸念だけでなく、違法駐車の頻発に対する焦燥感など、複数の理由がある。
しかし、カナダでもeスクーターの許可に踏み切る都市が増え、それに伴うデータ保護や監視体制に対する懸念も高まっていると、ブルックス氏はいう。
スマートフォンからeスクーターをレンタルする場合、2地点の位置データはもちろん、運転免許証やクレジットカード情報も提供する必要があるだろう。
ブルックス氏は「人々は以前にも増して追跡され、行動がテック企業に把握されているように感じています」と話す。
続けて、ブルックス氏は「データを分析してその結果を有効活用するといえば、プライバシーを侵害せずにそのようなことが可能なのかと、いくらか疑念も生じます。これについては、多少テック企業に対する反発感もあるでしょう。データが武器のように使われれば自分が被害者になると考え、予防線を張ろうとする人もいるのです」と語った。
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シャーマン氏は、PBTが使うのはeスクーターから取得するデータのみであり、ユーザーのデバイスには関与しないとしていないという。
シャーマン氏 「また、個人のプライバシーを保護する観点から、収集するデータは地理空間的なものにとどめています」
シャーマン氏は、eスクーターのような超小型モビリティには新しいインフラが必要であるとしつつも、計画して構築するには時間がかかる、という見解を示している。
それまでの間は現状のITインフラに課された新たな要求に応えるしかない。シャーマン氏は「スクーターから取得する膨大なデータをどのように運用するかというコンセプトです。これを叶えるには、データセットの管理に新しい手法を取り入れなければなりません」 と話した。
続けて、長期的な課題として、IoT交通センサーや自動運転車といったほかの交通インフラの要素を、スマートシティとして超小型モビリティのデータとどう紐づけるのかという点があり、その結果生じる膨大な量のデータセットをどのように管理するのかという問題があるという。
シャーマン氏曰く、これに成功すれば、渋滞の緩和やセキュリティの強化だけでなく、街路灯や駐車場についても改善が見込めるという。
これは、災害対策の拡充にもつながるかもしれないことから、こうした課題への取り組みをすでに開始している自治体もある。
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中国の南京市は、7,000台のバス、1万台のタクシー、そして100万台の自家用車にセンサーを設置した。
ここから得られる大量のデータを分析することで、インフラを新たに構築することなく、通勤・通学する市民により合理的なルートを開示している。2019年、米・シアトルでは市内を通る州道99号線に、「スマートトンネル」がオープンした。
カメラを300台以上設置し、13マイルにおよぶファイバーケーブルを敷設したほか、プログラム制御の道路標識を100カ所に配置することで、通勤・通学する市民にリアルタイムの情報を提供している。
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スマートシティでは膨大な量の交通データが扱われることになる。初期段階にあたるいま、取り組みの一部として導入されたのがeスクーターだと、ブルックス氏は述べている。
そしてブルックス氏は、「インフラの統合を通じて事業規模に応じたキャパシティを準備し、その中でデータをどのように機能させるかということが、自治体に課せられた課題です」と話した。
(2020年3月16日, THE FORECAST by NUTANIX)
記事構成:ニュータニックス・ニュース! 編集部, Nutanix Japan
*ジュリアン・スミス氏はフリーライター。
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