英調査会社 Vanson Bourne は、2022年12月~2023年1月に、世界中の IT 意思決定者 1,450 名を対象に調査を実施しました。
Nutanix では、エンタープライズ企業におけるクラウド導入の現状や、IT インフラおよびクラウド関連のデータ管理に関する重要課題を把握するために、5 年連続となるグローバル調査を実施しました。本調査は、英国の調査会社 Vanson Bourne によって 2022 年12 月と 2023 年 1 月に、世界中の IT 意思決定者 1,450 名を対象に実施されました。調査対象者は、北南米(Americas)、欧州、中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋・日本(APJ)地域の、さまざまな業界、事業規模に及んでいます。
第 5 回年次 Enterprise Cloud Index(ECI)の調査結果で明らかになったことは、プライベート IT インフラ(オンプレミスまたはホスト型)、パブリッククラウド、エッジロケーションを含む複合的な環境で、多種多様なインフラを利用する傾向が強くなっていることです。インフラ環境の多様性が増すなか、IT 担当者は、アプリケーションやデータを管理し、保護できる統合された環境を求めています
日本ではハイブリッド・マルチクラウドが主流となり、ホスティングデータセンターの利用も3倍に増加しています。 日本企業に関するECIの詳しい調査結果はこちらよりご覧いただけます。
過去 1 年間に、1 つまたはそれ以上のアプリケーションを異なる IT インフラに移動した組織の割合
アプリケーションの移動は複雑でコストがかかることに同意した組織の割合
複数のクラウドのアプリケーションとデータを、1 つの統合された場所で管理できることはメリットであると回答した組織の割合
01回答者のほとんどの組織では複数のタイプの IT インフラを利用しており、ほぼ全ての回答者が、統合プラットフォームでそれら全てを一元管理できれば理想的だと考えている。
IT 部門の大多数(60%)は、複数の IT インフラを運用しており、その形態には、プライベートクラウドとパブリッククラウドの組み合わせ、複数のパブリッククラウド、そして、オンプレミスとホスト型のデータセンターの併用などがある。複数のITインフラの運用は近い将来、ほぼ4分の3(74%)にまで増加すると予想される。しかし、インフラを混在させることにより、管理上の新たな課題が生じている。回答者の 94% が、さまざまな環境のアプリケーションとデータを一元的に管理できることでメリットが得られると回答している。
02データのセキュリティと管理が IT インフラの選択における重要な考慮事項である。
データは、エンタープライズのインフラの決定を左右するカギである。データセキュリティ、データ保護とリカバリ、データ主権は、インフラ導入時の重要な条件項目である。しかし、データの可視化はますます大きな課題となっている。回答者の 94% が完全な可視性が重要であると回答したのに対し、データが存在する場所を完全に把握しているとした ECI の回答者はわずか 40% に過ぎない。
03 クラウドのコスト制御が IT 管理における課題の最優先事項。
回答者の 85%は、クラウドコストの管理が、現行の IT インフラを使用するうえでの課題であると考えており、3分の1以上(34%)は、この課題は「深刻」であると回答している。加えて、ほぼ半数(46%)の回答者が、クラウドのコスト削減のために、今後 1 年間のうちに、一部のアプリケーションをオンプレミスのデータセンターに戻すことを予定している。
04ほぼ全ての回答者 (97%)が、オーブンソースの Kubernetes オーケストレーションの利用を開始している。
しかし、Kubernetes 環境を支えるインフラ、ストレージ、データベースサービスの設計と構成が引き続き重要な課題である。
05サステナビリティが、今や IT の優先事項である。
ほぼ全ての回答者(92%) が、1 年前よりも自社におけるサステナビリティへの取り組みの重要度が高まっていると回答している。この優先順位の変化は、主に企業の環境、社会、ガバナンス(ESG)への取り組み(63%)の強化、サプライチェーンの混乱やハードウェアの調達サイクルの長期化(48%)によって生じている。
IT 部門の大半(60%)が現在、複数インフラを活用していると回答したことは驚くには値しないが、この傾向は拡大する一方である。運用の環境には、プライベートクラウドとパブリッククラウドの混在、複数のパブリッククラウド、またはオンプレミスとホスト型のデータセンターの併用などがある。IT を単一の環境で整備しようというアプローチでは、もはやモダンビジネスのニーズをサポートできないのが実情となっている(図 1 参照)。
現在
1~3 年以内に
図 1: 複数の IT 環境を利用
調査対象のエンタープライズの約 4 分の 1(24%)がオンプレミスのデータセンターを主に利用している。わずかの差でこれに続くのが、オンプレミスとホスト型のデータセンターの混在(23%)、ハイブリッドクラウド(21%) である。一方、ハイブリッドマルチクラウド、またはプライベートクラウドと複数のパブリッククラウドの併用は、現在は 12% であるが、今後 1 年間で、3倍以上の 38% になると予想される。数年先を見据えると、ハイブリッドマルチクラウドが主流となり、ハイブリッドがそれに続くと予想される(図 2 参照)。
オンプレミスのデータセンター/プライベートクラウド
オンプレミスとホスト型両方のデータセンター/プライベートクラウド
ホスト型のデータセンター/プライベートクラウド
ハイブリッドクラウド
ハイブリッドマルチクラウド
パブリッククラウド
マルチクラウド
現在
1~3 年以内に
図 2:現在と将来の IT モデル※
※四捨五入により、現在/将来の合計が 100% にならない場合がある。
どの IT インフラを導入するかを選択する際、エンタープライズでは、サイバーセキュリティ、データ復旧、データ主権が主たる条件だと回答している。一方で、インフラの意思決定要因のトップ 3 は何かを質問したところ、「既存のアプリケーションを容易にパブリッククラウドへ移行させる能力」が、「アプリケーションの要件」や「コスト」よりも意思決定に大きな影響を与えることがわかった(図 3 参照)。さらに、意思決定における最も重要な要因を 1つだけ選択するとしたらという問いに対しては、「既存のアプリケーションを容易にパブリッククラウドへ移行させる性能」が 3 位にランクインしている。アプリケーションの稼働要件がインフラ導入の決定要因リストの最下位にあるにも関わらず、回答者の大半(86%)が、現行の IT インフラで、データ分析、AI、機械学習といった高性能なワークロードを実行することに大きな課題があると回答している。
多くのエンタープライズにとって、もう 1 つの考慮事項はエッジである。ほぼ全回答者(93%)が、現行のエッジ戦略の立案と強化は、今後 1 年間で組織が取り組むべき重要事項であると回答した。
ランサムウェア、マルウェアからの防御を含むサイバーセキュリティ対策
データの保護とリカバリ
データ主権
エッジ、データセンター、パブリッククラウド(複数)へのデータの分散
既存のアプリケーションを容易にパブリッククラウドへ移行させる性能
クラウドとオンプレミスを横断して実行できる柔軟性
データサービス(ファイル/ブロック/オブジェクトなど)
サステナビリティ
性能
規制に関する懸念、コンプライアンス
アプリケーションの要件
コスト
図 3:インフラ導入の意思決定要因 トップ 3
IT インフラを混在させて運用する組織が増えるなか、回答者は、アプリケーションとデータを単一のコンソールに統合し、プロビジョニング、移動、管理、監視、セキュリティを行うことができる包括的なツールの採用が優先事項であるとしている。ECI 調査対象者のほぼ全員 (94 %)が、「クラウド上の全てのアプリケーションとデータを 1 箇所で実行、管理することが理想的であるか」という問いに肯定の回答をしている。
新たな統合管理ソリューションはシームレスなワークフローとデータ管理を可能にする。こうしたソリューションは、エンタープライズが、リソースの場所を問わずアプリケーションやデータを最適化するうえで役に立つ。また、ほとんどの組織では、プライベート、パブリッククラウドを含む IT 環境の相互運用性のニーズを認識している。調査結果では、昨年に比べ、完全な相互運用性のレベルは若干向上している。現在の IT 環境において「相互運用性は極めて限られている」と回答したのはわずか 8% であった(図 4 参照)。相互運用性があることで、異なるクラウド環境間でアプリケーションを容易に移動させることができる。しかしこれは現在、組織にとって悩みの種となっている。実際に、 ECI 調査の回答者の 86% が、異なる環境間でアプリケーションを移動させることは複雑でコストがかかると回答している。
完全な相互運用性がある
ある程度の相互運用性がある
相互運用性は極めて限られている
相互運用性はまったくない
2022
2021
図 4:IT インフラの相互運用性レベル
ハイパーコンバージドインフラ(HCI)も、回答者の IT 組織において、管理負担の軽減に効果を発揮している。回答者の半数以上(53%)が HCI を既に導入済みまたは導入作業中と回答し、ほぼ全員(93%)が 2 年後には導入の完了を予定していると回答している。HCI は、コンピューティング、ストレージ、ネットワーキング機能を仮想化し、ソフトウェアでプロビジョニングや変更ができるため、インフラ内のあらゆるリソースを統合的に管理することができる。オンプレミスとクラウドの両環境でのデプロイメントが可能になるため、ハイブリッド環境にとっては理想的な基盤である。
今後 2、3 年で数億ものアプリケーションが新たに作成され、膨大な量のデータの生成が予測される。これを踏まえ、多くのエンタープライズでは、どこにアプリケーションをホストするかについてだけでなく、どこにデータを格納するかについても最適化が必要であることを認識しはじめている。これには、まず、データの存在場所を可視化することが必要である。実際に、回答者の 94% が、完全な可視性が重要であると回答している。しかし、データの所在を完全に把握していると回答した回答者は、全体の 40% に過ぎなかった。すなわち、60% はまだ可視性がないことになる。
以上を見れば、エンタープライズのインフラ導入の意思決定にデータもまた大きな要素を占めていることは驚くにあたらず、事実、データセキュリティ(38%)、保護とリカバリ(32%)、データ主権(30%)、環境間の分散(27%)が主要な推進要因の上位を占めている。複数の IT インフラを選択可能にするというニーズは明らかであるが、組織的や技術的に数多くの問題があり、異なる環境に格納されたデータの普遍的な可視化と制御は、ほとんどの組織にとって重要な課題となっている。
例えば、データセキュリティ、プライバシー、コンプライアンスは、最も多くの回答者(88%)が、現在の IT インフラにおける課題として回答している。さらに、ランサムウェアやその他のタイプのマルウェア攻撃からの保護(87%)、データ分析、AI、機械学習などの高性能ワークロード(85%)が、現在の IT インフラにおける課題の上位回答に挙げられている。
また、IT スキルが不足しているなか、クラウド環境の多様化にともない、混在するクラウド環境でのデータ管理は極めて複雑になっている。図 5は、それぞれの項目を、プライベートクラウドとパブリッククラウド環境が混在する環境でデータを管理するうえでの「最も大きな課題」であるとした回答者の割合を示している。
データストレージのコスト
データ分析・オーケストレーション
セキュリティ
ディザスタリカバリ・事業継続性
データの同期
データの所在の可視化
データの移植性
コンプライアンス・ガバナンス
データのサイロ化
図 5:混在環境でデータ管理をするうえでの課題
新たなアプリケーションのデプロイメントに、マイクロサービスベースのクラウドネイティブなアプリケーションを導入するエンタープライズが増えている。マイクロサービスは、アプリケーションを分割して、特定の業務を処理する複数の小さなサービスに細分化することにより、動的なクラウド環境におけるアプリケーションの拡張性、耐障害性、開発スピード、構築時間の課題を解決する。マイクロサービスをコンテナにパッケージ化し、アプリケーションをプロプライエタリのインフラから切り離し、1つのエラーが他のコンテナやホストコンピュータ全体に影響を与えないようにする戦略が広く採用されつつある。コンテナは、アプリケーションを任意のクラウドプラットフォームで実行することを可能にし、クラウド環境間におけるアプリケーションのモビリティを容易にする。
コンテナを採用するエンタープライズが増えるなか、Kubernetes がデファクトのコンテナオーケストレーションシステムとなっている。Kubernetes は、コンテナ環境の操作の複雑さを取り除き、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイメント、スケーリング、管理を自動化する。上記にあげる理由から、今回の調査のほぼ全回答者(94%)が Kubernetes を導入したと回答している。
マイクロサービスアーキテクチャを使用して設計されたアプリケーションには多くの変動要素が含まれる。基盤となるコンピュートやストレージインフラには、インフラ間でサービスのレプリケーションをサポートできる機能や動的なリソースのデマンドと利用のニーズを満たす拡張性が必要である。これは、多くのエンタープライズにとって、特に大規模に実装を行う際の課題となる。そのため、Kubernetes 環境の導入と管理を行ううえでの喫緊の課題として、ストレージ基盤(42%)とインフラの設計(42%)が挙げられているのも当然といえる(図 6 参照)。
同様に、レガシーアプリケーションの Kubernetes への移行(40%)には、3 層データセンター向けに設計されたモノリシックなアプリケーションを、全く異なるマイクロサービスベースの開発アーキテクチャで再構築するという意思決定と投資が必要であり、重要な課題となっている。
複数のクラウド環境の包括的な管理
ストレージ・データベースサービス
基盤インフラの設計/構成
Kubernetes のバージョンとノード OS バージョンのアップグレード
レガシーアプリケーションの Kubernetes への移行
コスト最適化
クラウドネイティブな人材の採用
拡張性
Kubernetes の展開や管理で課題に直面したことはない
現在 Kubernetes は使用していないが、今後 24 か月以内に使用を開始する予定
現在 Kubernetes を使用しておらず、今後 24 か月以内にも使用予定はない
不明
図 6:Kubernetes の展開と管理に関する最大の課題
パンデミック時に必要になった迅速なスケーリングをパブリッククラウドのリソースに依存していたこともあり、クラウドのコストを IT の懸念事項として報告するエンタープライズが増えている。85% の組織がクラウドのコスト管理が課題だとしている。さらに、今後の IT 予算に関して、クラウドのコストに対して 30% が「重大な懸念事項である」、46% が「ある程度懸念している」と回答している。
例を挙げると、ドイツの某製造業の IT 責任者兼 VP レベルの回答者は次のようにコメントしている。「クラウドサービスの導入はさらに高コストになっています。これはおそらく、次世代のテクノロジーをビジネスに採用する際に直面する最大の障壁の 1 つになるでしょう。」
コスト管理に対する戦略としては、複数の回答者が、クラウドの利用状況を可視化するツールを利用してアプリケーションとデータのホスト場所を最適化し、できる限り無駄を省くようにするとしている。また、図 7 の結果でわかるように、「一部のアプリケーションを別のパブリッククラウドプロバイダーに移動させる」予定もある。
クラウドの消費量とコストについての可視化を向上させる
クラウドの無駄を省くためにソリューションを採用する
一部のアプリケーションを別のパブリッククラウドプロバイダーに移動させる
データセンターの運用コストを削減できるサービスプロバイダーを活用する
一部のアプリケーションをオンプレミスのデータセンターに戻す
今後 1 年間で、クラウドのコスト管理のためにデータやアプリケーションを実行する場所を最適化する予定はない
図 7: 今後のクラウドのコスト管理における戦略
クラウド人材の採用と維持もコスト管理に関する課題の 1 つである。回答者の 80% が、IT およびクラウド人材の採用と維持は、来年度の予算上の懸念事項であると回答している。今後 2 年間で追加の人材が必要な領域はどこかという問いに対しては、IT スペシャリスト(59%)、クラウドエンジニアまたはアーキテクト(48%)、クラウドネイティブ開発者 (46%)が上位にあげられている(図 8 参照)。全回答者が今後 2 年間に IT 人材を追加採用予定であると回答していることは、当然の流れとも言える。
IT スペシャリスト
クラウドエンジニアまたはアーキテクト
クラウドネイティブ開発者
AI/ML 開発者
IT ゼネラリスト
DevOps エンジニア
プラットフォームエンジニア
その他
今後 2 年間で追加の人材は必要ない
不明
図 8 :今後 2 年間で追加人材が必要な領域
米国のエネルギー、石油/ガス、公共業界における最高技術責任者(CTO)レベルの ECI 回答者のひとりは次のように述べている。「最大の懸念事項は、社会の大きな変動とコスト抑制の要請のなかで、人材を獲得するための競争が激化することです。」
エンタープライズは、多様性と複雑さが増す環境を管理するとともに、ビジネスにおけるサステナビリティ目標を達成することが、これまで以上に求められている。IT 運用をしながらサステナビリティ事業戦略を実現することは、ECI 回答者の取り組むべき課題として、その優先順位を上げつつある。
ほぼ全ての回答者(92%)が、「1 年前と比べて、サステナビリティは自社の組織にとって重要になっている」という意見に同意している。一方で、86% が企業のサステナビリティ目標の達成は難題であり、そのうちの 3 分の 1 以上(36%)が「大きな難題」と回答している。サステナビリティ目標は、IT や組織全体でのエネルギー消費量の削減(図 9 参照)から、不確実な経済状況下での事業継続性を支援する戦略にまで多岐にわたる。
例えば、オーストラリアの某金融サービス企業の CEO レベルの ECI 回答者は、次のように述べている。「IT リーダーは今年、スタッフの維持やサイバーセキュリティ対策といった永続的な課題に対処する一方で、ハイブリッドワークの増加への対応やサステナビリティの規制と向き合わなければなりません。」
サステナビリティを重視する理由はさまざまである。そのうちで、企業の環境・社会、ガバナンス(ESG)への取り組み(63%)、サプライチェーンの混乱やハードウェア調達サイクルの長期化(59%)が上位の要因として挙げられている。
環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組み
サプライチェーンの混乱やハードウェア調達サイクルの長期化
顧客の購買意思決定
エネルギーコストの削減
規制
その他
図 9:IT サステナビリティの推進要因
回答者は総じて、サイバーセキュリティ対策が、IT インフラを決定するうえでの最重要基準であると回答している。特筆すべきことは、ほぼ全ての回答者(99%)が、過去 1 年間に、1 つ以上のアプリケーションを別の IT インフラに移行しており、その最大の理由を 46% が、組織のセキュリティ体制を改善するためだと回答したことである。
ランサムウェアやマルウェア攻撃の防御を強化する主な方法として、セキュリティ対策の更新、従業員トレーニング、セキュリティ検証プロトコルの数を増やす、などがある(図 10 参照)。
ランサムウェアやマルウェアに特化したセキュリティ対策に更新
ランサムウェアやマルウェアに特化した従業員トレーニングの実施
セキュリティ検証プロトコルの数を増やす
その他
ランサムウェアやマルウェア攻撃への対策はしていない
わからない
図 10:自社で実施しているランサムウェアやマルウェアの攻撃への対策
企業ユーザーが業務に使用するシステムは、個人の環境から隔離すると同時に、セキュアに保護する必要があります。環境をシームレスに連携させ、これらのハイブリッドシステムのセキュリティを確保することは困難な課題です。
しかし、これだけで十分な対策といえるだろうか?回答者の 93% は、自社がランサムウェアやマルウェアの攻撃に対する対策をさらに強化すべきだ回答している。これは、それぞれの回答者が所属する組織のセキュリティ戦略に、脅威の変化を先取りしているものとそうでないものがあることを示している。
ECI による調査を開始して以来 5年間、データセキュリティと関連のバックアップ、コンプライアンス、ガバナンス、主権機能は、IT インフラ投資の優先事項であり、IT 管理における最大の課題である。その理由は次のとおりで、当然ともいえる。
変化し続ける攻撃対象領域:攻撃対象領域は日々拡大し、変化している。悪意を持った攻撃者は新たな脆弱性を発見し、IT 部門が配備してきた最新の保護機能を回避する方法を常に探している。このような状況は「いたちごっこ」であり、エンタープライズのサイバーセキュリティ戦略や保護対策が「完了」を見ることはない。それどころか、データセキュリティは、その内容が常に進化を続ける戒律のごとく、IT 部門に対し、絶え間ない評価と改善を要求する。これが、インフラ導入の意思決定要因で、サイバーセキュリティ対策を選択した回答者の割合が 38% を占め、最上位にランクインした理由と考えられる。
スイスのテクノロジー企業の CIO 兼 VP レベルの ECI 回答者は、サイバーセキュリティの課題が一向に収束しないことについて次のように述べている。「企業ユーザーが業務に使用するシステムは、個人の環境から隔離すると同時に、セキュアに保護する必要があります。環境をシームレスに連携させ、これらのハイブリッドシステムのセキュリティを確保することは困難な課題です。」
厳しさが増すコンプライアンス規制:経済の中心は日進月歩でデジタル化され、個人情報保護が重視されるなか、業界や行政機関のコンプライアンス規制は常に変化している。例えば、業界や行政機関の規制は、オンサイトのデータストレージを必須、または顧客の個人特定情報(PII)は事業を行っている本社と同じ地域に保存することを義務付けるものもある。後者の場合、パブリッククラウドサービスを利用するエンタープライズは、効率性とデータバックアップの最適化のために分散アーキテクチャを採用しているプロバイダーに対して、顧客データが他の地域に漏洩されないことを確認する必要がある。
IT 担当者のクラウドデプロイメントの基本的な傾向は、北南米(Americas)、欧州、中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋・日本(APJ)地域にわたって大きな差はなく、類似の管理上の問題に直面している。しかし、言及しておくべき次のような特徴がいくつかある。
利用される IT 環境のモデル:それぞれの地域が異なる IT 環境モデルが優位を占めている(図 11)。例えば、EMEA では、オンプレミスとホスト型のデータセンターの両方を独占的に使用している割合が最も高い(26%)。一方で、APJ では、従来からのオンプレミスのデータセンター/プライベートクラウドの利用の割合が最も高く(26%)、また、ハイブリッドマルチクラウドの採用が他の地域と比べて高い(15%)。また、IT インフラとしてパブリッククラウドを利用する割合も 13% であり、他の地域よりも 2~3 倍に達する。
Americas においては、プライベートインフラと単一のパブリッククラウドプライベートフォームを組み合わせたハイブリッドクラウドの利用率が最も高く 26% である。3年後の Americas については、他の地域と比較すると、はるかに多くのハイブリッドクラウドの利用が予測されているが、ハイブリッドマルチクラウドの利用は極めて低く、プライベートインフラの利用はわずかに多い程度である(図 11 参照)。
オンプレミスのデータセンター/プライベートクラウド
オンプレミスとホスト型のデータセンターの混在/プライベートクラウド
ホスト型のデータセンター/プライベートクラウド
ハイブリッドクラウド
ハイブリッドマルチクラウド
パブリッククラウド
マルチクラウド
Americas
EMEA
APJ
図 11: 地域ごとの利用 IT 環境モデル
※四捨五入により、現在/将来の合計が 100% にならない場合がある。
データの可視性:EMEA では、さまざまな IT 環境における現在のデータ可視性について、他の地域と比べて肯定的であることがわかる。IT プロフェッショナルの 44% が、データに「完全な」可視性があると回答している。これは、Americas の 40%、APJ の 36% と比較すると高い割合である。
管理における主要な課題:複数の多様な環境でデータ管理をする場合の主要な課題についての問いには、Americas の回答者は「セキュリティ」を挙げ、EMEA よりも 12%、APJ よりも 11% 高い。また、APJ での回答の割合が最も高かったのは、「データ分析とオーケストレーション」であり、他の 2 つの地域は、同じ割合である。APJ の回答者は、「データのサイロ化」を主要な課題だとする割合は他の地域よりも低い傾向にあった(図 12 参照)。
データストレージのコスト
データ分析・オーケストレーション
セキュリティ
ディザスタリカバリ・事業継続性
データの同期
データの所在の可視化
データの移植性
コンプライアンス・ガバナンス
データのサイロ化
Americas
EMEA
APJ
図 12:地域別の混合環境におけるデータ管理の課題
アプリケーションの移動が必要になる要因:3 つの地域では、過去 1 年間に 1 つ以上のアプリケーションを別のインフラ環境に移動した基本的な理由は共通している。しかし、APJ では、移動の理由として選択した回答数が他の地域を大きく上回る項目がいくつかある。特に、「アプリケーションに対するより優れた制御を得るため」(47%)、「サステナビリティ目標の達成」(44%)は、他の地域よりも大幅に多く、最大で 10% の差が見られる。同様に、Americas では、「IT 管理のアウトソース化」(38%)が移動の理由として EMEA や APJ を上回っている。また、「過去 1 年間にアプリケーションを異なる環境に移動させていない」のは、Americas のみ(2%)であった(図 13 参照)。
セキュリティ体制の強化または規制要件を満たすため
クラウドネイティブサービス(AI/機械学習)の統合
データアクセス速度の改善
アプリケーションに対するより優れた制御を得るため
サステナビリティ目標の達成
アプリ開発の高速化
IT 管理のアウトソース化
ディザスタリカバリ
容量の懸念
エグゼクティブからの必達要件
コスト
過去 1 年間にアプリケーションを異なる環境に移動させていない
Americas
EMEA
APJ
図 13:過去 1 年間にアプリケーションを移動させた理由
IT インフラの多様化はますます進んでいる。第 5 回年次 ECI 調査の回答者の半数以上(60%)が複数の環境を運用しており、その大多数が、今後もこれを継続するか、または IT 環境の多様化をさらに進めることを計画している。オンプレミスのプライベートクラウドまたはエッジと、複数のパブリッククラウドのプラットフォームを組み合わせたハイブリッドマルチクラウドモデルの採用は、今後 3 年間で現在の 3 倍以上になることが予測されている。一方で、他のほとんどのモデルの採用は横ばい、もしくは減少すると考えられる。同時に、データは IT における意思決定のより大きな要因となりつつある。
エンタープライズでは、IT 環境を最適化し、サステナビリティ目標や予算目標を含む事業目標を達成するために、自社のデータとアプリケーションのための混合インフラを簡素化し、統合することが課題となっている。ほとんどのエンタープライズは、管理の簡素化の取り組みを順調に進めており、IT 環境の相互運用性はある程度確保されていると回答している。しかし、全てのデータの所在を統合的に可視化できる段階にはまだ至っていない。本調査の回答者の 94% が完全な可視化が重要であることに同意したにもかかわらず、自社データの所在を完全に把握しているとの回答はわずか 40% にすぎない。すなわち、60% が未だに完全な可視性を得ていないことになる。
データの可視性は、クラウドを横断して一貫したセキュリティポリシーを設定、実施するエンタープライズの能力にも大きな影響を与える。また、今回の調査でも、データセキュリティ、関連するコンプライアンスおよびガバナンス、データ主権を回答者が最優先事項の課題として回答したことは驚くべきことではない。
私たちは、2020 年と 2021 年に、多くのエンタープライズが IT 戦略を掲げ、デジタル変革(DX)やテクノロジー計画を推進するさまを目の当たりにした。組織は、Kubernetes コンテナオーケストレーションやクラウドの種類を問わない管理ツールといった、クラウドプラットフォーム間の根本的な違いを抽象化し、特定の機能を自動化するテクノロジーソリューションへの依存度を引き続き高めるものと思われる。こうした新たなツールは、スケーリングが必要な多様で高度に動的な環境の複雑さを排除し、IT リソースのニーズや変化に応じて、アプリケーションやデータをセキュアかつ効率的に移動できるよう、エンタープライズを支援するものである。
この数年で起きた大きな変化は驚くべきことではない。特に IT 業界の変化は顕著である。ECI 調査が最初に実施された 2018 年以降の IT 業界における注目すべき変化は何か?
インフラの変化:2018 年の調査では、プライベートクラウドに加えて、何らかのパブリッククラウドインフラを利用していた回答者の割合は、19% であった。5 年後の現在、ハイブリッドまたはハイブリッドマルチクラウドの環境を含め、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせて使用している回答者の割合は、33% まで上昇している。
マルチクラウドの現実性:複数の IT 環境の利用に対する考え方も大きく変わってきている。5 年前は半数を超える 58% の回答者が、将来的に全てのワークロードをプライベートクラウドかパブリッククラウドのいずれかのみで実行することを想定していた。しかし今では、60% が現在利用している複数の環境を拡張する意向を示し、74% が数年以内に拡張を実行予定であると回答している。2018 年には、特定のインフラや IT 運用モデルへの統合に取り組むことが理想的とされていたが、現在では、ほとんどのエンタープライズが、複数の環境でワークロードを実行することは必然であり、メリットがあると考えている。現在の目標は、この混在した環境の効率化であり、94% の回答者が、複数の環境にある全てのアプリとデータを一元管理できる場所を持つことが自社にとって理想的であることに同意している。この劇的な変化の大部分は、パンデミックが IT に与えた激震と、その後に多くの企業が経験した進化が大きく影響していると考えられる。結果、多くのエンタープライズが「1 つのクラウドでは対応できない」と認識するようになった。
インフラ基準の変化:データセキュリティ、コンプライアンス、データ主権に関連する機能は、インフラ導入の際の意思決定要因として、以前と同じく IT の優先順位のなかで最も重要な位置を占めている。しかし、その他の決定要因はこの数年で変化している。今では、全体の約 4 分の 1 の回答者が、クラウドとオンプレミスのインフラ全体でアプリケーションを実行し、データを処理できる柔軟性を重要視すると回答しているが、5 年前はわずか 6% に過ぎなかった。アプリケーションやデータへのアクセスの性能も重要視されるようになる一方、コストを重要視する傾向は、穏やかに弱まっている(図 14 参照)。
サイバーセキュリティ
クラウドとオンプレミスを横断して実行できる柔軟性
性能
コスト
2018
2023
図 14:インフラ導入の意思決定要因 - 過去と現在